『2012 009 conclusion GOD'S WAR -サイボーグ009完結編』(トゥエンティ・トゥエルブ ゼロゼロナイン・コンクリュージョン ゴッズ・ウォー -サイボーグゼロゼロナインかんけつへん)は、石ノ森章太郎と小野寺丈の共著による小説。石ノ森の漫画『サイボーグ009』の完結編である。
2006年12月19日、角川書店から第1巻が発売された。全3巻の予定だが、第2巻以降の発売は2012年現在未定。
物語[]
1997年11月。石ノ森章太郎は病床に伏しながらも、自らの代表作『サイボーグ009』の完結編についての構想を巡らせていた。そんな彼の前に、ギルモア博士が現れた。
自分の萬画[1]の登場人物が現実に現れたことに驚きを隠せない石ノ森。だが、ギルモアの言葉は更に彼を驚かせるものだった。萬画に登場するサイボーグ戦士たちは本来は21世紀の人間であり、彼等の戦いを001 / イワンがテレパシーで過去の石ノ森に伝え、それを基に描かれたのが萬画『サイボーグ009』だというのだ。そして彼自身も、2011年の世界からイワンの超能力でタイムスリップしてきたという。
さらにギルモアは、戦いを終えて各自の生活に戻ったサイボーグ戦士たちが、それぞれ「神」の存在を匂わせる事件に遭遇していると語る。それは彼等にとって最後となる戦いの予兆であろう、そしてそのヒントとなるのが、これから描かれるはずの完結編だというのだが…そこでギルモアは言葉を濁し、「ハッピーエンドを頼む」と言い残して去っていった。
石ノ森はギルモアの態度から自分の死期を悟り、完結編の完成を急ぐ。そのタイトルは…
『2012 009 conclusion GOD'S WAR』
果たしてサイボーグ戦士たちが遭遇した事件とは。そして、彼等を待ち受ける最後の戦いとは…?
概要[]
『サイボーグ009』の完結編としては、過去に、「冒険王」1969年2月号 - 6月号に連載された『天使編』、「COM」1969年10月号 - 1970年12月号に連載された『神々との戦い編』が発表されていたが、いずれも未完に終わっている。自らのライフワークとなった『009』の完結は石ノ森にとって「是が非でも成し遂げねばならないこと」だった。
病に侵されてもなお完結編の構想を練り続け、21冊にも及ぶ膨大な構想ノートを残した石ノ森だが、自らの手で完成させることができないまま逝去。その後、生前の石ノ森から全体の構想を聞かされていた小野寺丈が、構想ノートに書き残されたプロットと石ノ森の手による第2章の初稿を基に完成させることになった。しかし、プロットの中には明らかに没であろう要素も書かれており、採用するべき要素の選定から行わなければならなかった。小野寺はあとがきの中で「本当ならメモを取ったり綿密な打ち合わせをしたりするべきだったのだろうが、それをやってしまうと石ノ森から生きる意欲を奪うことになりそうで、恐くてできなかった」と語っている。それが結果的にプロットの整理を遅らせる要因になった。また、小野寺にとって初挑戦となる小説であり、多くのファンが長年待ち望んでいた完結編ということもあって、並々ならぬプレッシャーを感じたという。
なお、小説という形での発表は石ノ森の意志でもあった。その後漫画化することも考えており、まずは書き下ろしの形で単行本全10巻を同時発売、その後再構成して隔週刊誌「コミックアルファ」に連載する予定だったという。これは石ノ森をフィーチャーした2大企画の一つとして考えられており、もう一つの企画は島本和彦作画による『スカルマン』だった。石ノ森の逝去によって本作の漫画化が不可能になったため、島本は『スカルマン』の構成を当初の予定から変更しなければならなかったという。
本作においては、上記のように「サイボーグ戦士たちは21世紀の人間だった」という設定になっている。そのため、誕生経緯などが新たな解釈に変更されている。特に004が改造される経緯は、オリジナル設定では重要な役割を果たしていたベルリンの壁が21世紀には存在しないため、大幅な変更が行われている。
本作のプロットの一部は、2002年にテレビアニメ『サイボーグ009 THE CYBORG SOLDIER』の最終3話(放送時は2話)「Conclusion God's War〜序章〜」として先行公開されていたが、完成作品では一部の設定が明らかにアニメ版と異なっており、アニメ放送後もプロットの練り直しが続けられていたことが窺える。
本作におけるサイボーグ戦士の誕生経緯[]
2005年、宇宙開発のためのサイボーグを作る計画「C・A・P(サイボーグ・アストロノーツ・プロジェクト)」が進められ、世界各国から優秀な科学者が集められた。しかし、その実態は近い将来起こるであろう成層圏を舞台にした戦争を見越してサイボーグ兵士を開発する計画だった。各国から集められたという資金も、その本当の出所は「死の商人」と呼ばれる軍需産業だった。001~009のコードネームを与えられたサイボーグ手術の被験者たちは、皆拉致同然に連れてこられた実験台だった。
計画に携わっていたギルモア博士と9人のサイボーグは真相を知り脱出、各地で追っ手のサイボーグたちと戦い続けた。そして2011年、ようやく平和を取り戻したかに見えたが…。
登場人物[]
- 石ノ森章太郎
- 萬画『サイボーグ009』の作者。それまでは自分の萬画の登場人物としか思っていなかったギルモアと出会い、思いもかけぬ真実を知らされる。そして自らの死期を悟り、『009』の完結編の完成を急ぐ。
- アイザック・ギルモア
- C・A・Pに参加していた科学者。自分達の作ったサイボーグが戦争に利用されようとしていることを知り、彼等と共に脱出、世界各地での彼等の戦いを見守っていた。
- 一連の戦いが終わった後は、イワンを引き取って育てていた。しかし、サイボーグ戦士たちがそれぞれ「神」の存在を匂わせる事件に遭遇したことから、彼等の身に起こるであろうことを石ノ森から聞くために、イワンの超能力で1997年へとタイムスリップする。
- 001 / イワン・ウイスキー
- C・A・Pに参加した父親の手で改造され、生身の人間が活動できない場所での司令塔となることが目的で、天才的な頭脳と超能力を得た。
- 一連の戦いが終わった後はギルモアと共に暮らしていた。15日起きて15日寝るという特殊な生活サイクルの持ち主だが、「神」の存在を匂わせる事件ではそのサイクルを乱された挙句、人類の闘争の歴史のイメージを脳裏に植えつけられ、さらに2012年に起こる出来事の一部を予知することになる。
- 002 / ジェット・リンク
- 元ニューヨークの不良少年。成層圏で自在に活動することを目的に飛行能力を持たされた。
- 一連の戦いが終わった後はニューヨークで探偵業を営んでいたが、ある仕事を引き受けたことから事件に巻き込まれる。
- 003 / フランソワーズ・アルヌール
- パリのバレリーナ。宇宙空間でも情報を得ることが可能な視力と聴力を持たされた。
- 一連の戦いが終わった後はパリでバレリーナに戻った。仲間たちとは意図的に連絡を取り合わないようにしていたが、009 / 島村ジョーに似た境遇を持つ青年アランと出会ったことから事件に巻き込まれる。
- 004 / アルベルト・ハインリヒ
- ドイツで長距離トラックの運転手をしていたが、好待遇を約束した会社からの迎えの車に恋人のヒルダと共に乗ったところ、その道程で自分が人体実験の被験者に選ばれたことを知り、ヒルダと共に逃走。しかし、ヒルダは射殺され、自身はさらわれて惑星開発を名目に様々な武器を内蔵したサイボーグにされてしまう。
- 一連の戦いが終わった後はトラックの運転手に戻ったが、ヒルダの面影を残す女性イエレと出会ったことから事件に巻き込まれる。
- エルシー・ライト
- ジェットのもとに現れた依頼人。行方不明になった弟を探してほしいと言うのだが…。
- アラン・ドヌーブ
- バレエ団の中ではまだ準団員のフランソワーズに注目し、メル友になった青年。大学の考古学研究員。
- 孤児として育った境遇など、ジョーに似た部分を持ち、やがてフランソワーズと恋人のようにやってゆく。しかし、自分が発掘した赤いクリスタルのために、思いがけず運命に翻弄されることになる。
- イエレ
- ハインリヒがアウクスブルクで出会った女性。ある目的のためにハインリヒに近付いたが、やがて自分が背負った宿命とハインリヒを重ねて見るようになる。
章題[]
- I(first) ISBN 4-04-873654-X (2006年12月19日発売)
- プロローグ
- 001 天使の羽音
- 002 摩天楼の底
- 003 ありえざるもの ※協力:大西信介
- 004 妖精(フェアリー)街道
- エピローグ
- II(second)(発売日未定)
- 005 ガイアの都
- 006 天空の食
- 007 幽霊劇場
- 008 海底ピラミッド
- 009 女神の陰謀
- III(final)(発売日未定)
脚注[]
- ↑ 「萬画」および「萬画家」という呼称は石ノ森の造語(詳細は石ノ森章太郎を参照)。一般的に使われている言葉ではないが、本作においては一貫してこの呼称が使用されているため、それに準ずるものとする。
参考資料[]
- 石ノ森章太郎選集・Shotaro World『サイボーグ009』第11巻、第12巻(メディアファクトリー)
- サイボーグ009 コンプリートブック(メディアファクトリー)
- MF文庫『スカルマン』第1巻(メディアファクトリー)
- ETV特集『石ノ森章太郎 サイボーグ009を作った男』(NHK教育テレビ)